最後にミュージカル観たのなんてもう五年くらい前になってしまったけど、今名古屋で上演してる「オペラ座の怪人」を観に行くことができました!
ファントムは昔学生時代にロンドンでオリジナル公演を観て、その後日本で劇団四季を観て、四季のCDを持ってて、とかなり好きなミュージカルの一つ。初めて夫と観たのもファントムだった。今回現地に着くまで夫には何も言わず秘密にしてたので、夫も久しぶりの観劇サプライズに喜んでた。よかった!
しかし私も30代になって、10年以上前に観たときと大分感じることが変わったなと思った。視点が主婦目線というか、中高年目線になってる。笑
クリスティーヌというキャラクターに対して思ったのは、子どもだな。と。この子子どもだよね。めっちゃ子どもだよね。昔は単に揉まれるヒロインだったんだけど、今観ると”まだ子どもであるクリスティーヌに振り回される大人たち”というのが「オペラ座の怪人」でいいのではないでしょうかと思いました。笑 ※私個人の感想です。
子どもだからこそ人の仮面もいきなり取るし(いきなり取るか普通)、一応プロの歌手デビューしてるのに歌えと言われて「イヤッ」とまる子ダッシュするし、ファントムに簡単に陶酔するしそうかと思えば王子ラウルが現れると「この孤独から救い出して」とか言うし…お前寝るとき見守られてるの感じてたろ!歌教わってたろ!ですよ。でも調子がいいというわけではなく、単に幼いという感じ。早くに大好きな父親を亡くしたので父親に代わる庇護者を求め続けてるから言ってることも「導いて」とか「光になって照らして」とか主体性が最後までない。だからたぶんラウルがクリスティーヌを恋してるのと同じようにはクリスティーヌは恋してない。一方ファントムはラウルのように女性としてのクリスティーヌを求めてるわけではなく、自分の求める芸術を最高の形にするためにクリスティーヌは欠かせぬ存在で、むしろ歌わないクリスティーヌはありえない。ラウルはクリスティーヌが歌おうが歌わまいがどっちでもいいと思うけどファントムは歌うクリスティーヌが何より大切で。その気持ちはもう手を出しちゃならない崇拝に近いようなものに見える。大切な存在だから仮面を二回取られても許しちゃう。
で、ラウルもまともな若者で、再会に運命感じてるあたりなんか一番乙女なんじゃないかと思うけどクリスティーヌへの気持ちはぶれないし態度も一貫している。告白もちゃんとする。(なのに「婚約は秘密にして」とか「今にわかる」とかわけワカメなこと言われてかわいそう…友だちだったら「その女やめとけよ」って言うよ。。)
支配人二人はオペラの出来よりは金勘定に興味がある俗物だけど経営者としては至極当然の大人。でも開演直前までクリスティーヌが歌ってくれるかわからなくてあたふたしなくちゃいけない。他にマダムジリーもカルロッタも、クリスティーヌの周りは主張が一貫している大人だらけなのに彼らがクリスティーヌの幼さゆえのぶれに大いに振り回されるというような話に見えた。二十代の私に「違う!!!」と怒鳴られそうだけど。
あとはみんな上手い!カルロッタも素晴らしかった。カルロッタの歌がくどければくどいほどクリスティーヌの清純さが引き立つという大切な役回りなので、第一幕のオペラのシーンからわくわく待ち遠しかった。期待を裏切らずクスリと笑いが漏れるほどやり過ぎ感のある歌声とコミカルな演技はすごい存在感。クリスティーヌの代役はいてもカルロッタの代役はいなさそうだ。支配人二人も交えた「プリマ・ドンナ」もブラビー!(女性なので) 「おーろかものめ」の蛙声もブラビー!
あと何よりファントムの高井治さんの歌声は素晴らしかった。外国のファントムみたいに表情豊かで細かい挙動で魅せてくるというよりは淡々とあまり感情を出さないファントムだったが、包み込むような歌声が演出上劇場の四方八方から聞こえてくるのはクリスティーヌじゃなくてもうっとりする。特に怒りを帯びたときの迫力は鳥肌が立った。ギリギリと嚙み締める歯とか浮き立つ血管とか感じらて生身の怒りという感じ。
これほどの辱めを
決して許しはしないぞ
一番好きなシーンです!
さて、今回実感したのは、生の観劇で得るものは多いということ。劇なんては後に何も残らないからもったいないと思い始めたら一万円なんて払ってられないけど、劇場を出たあとも胸いっぱいに渦巻く感情の洪水はお金に換算できない。頭の中を劇中歌をリフレインしながら、しっちゃかめっちゃか思い出したそばから細かな気づきを一緒に観た人とぶつけ合ってると、上手く言えないけど自分の世界ぎ一回りもふた回りも広くなったような、それなのに中身ぎっしり満ち足りた気持ちになってくる。私はこんなによそのことで感動する力が残っているのか、と。ミュージカル一本観てあれやこれや話してCDを何回も何回もリピートする、それだけのことだけどそれ自体がすごく好きで仕方ない。うちは子どもがいるから誰か一人体調崩したら行くのを止めるしかないというリスキーな状態だけどまた行けてよかった。
ほんと言うと三ヶ月くらい前のある夜、ふと自分がミュージカル好きだったことを思い出してぞっとした。あんなに好きだったのに、好きだった事自体を忘れていた。代わりに何を自分に詰め込んでいたのか、と思うと日々のタスク周りのネガティブなことが多くて、そりゃ鬱っぽくなるわと思った。子どもがいる人にとって観劇というのは決して簡単な趣味じゃないけど、絶対無理というわけではなく上手く段取りすれば今回みたいに達成することができる。無理と決めつけず好きなことで人生を埋めていきたい。